子どもの躾は家庭が一番
可愛いわが子が保育所や幼稚園に進む前になると、たいていの親御さんは「どこに入れるべきか」を思案します。そして最も重要な条件の一つとして「躾を上手にして下さるところ」を先ず念頭に置かれる場合が多いものと思われます。
なるほど、保育所や幼稚園は、知識の習得よりも社会生活の基本を身に付けさせてもらうところと考えればうなずけますし、その面に優れた園なら申し分ありません。しかしそれで事足れりと思って保護者が手抜きをするようなことがあればその弊害は意外に大きくなるのでは、と心配です。
3人のわが子を平等に万遍なく愛した母親が、たまたまその内の一人が東京に留学して、久しぶりに下宿先を訪れて3日間一緒に過ごした時、その子が母との間にそれまでにない最高の喜びを感得したことを知った、という児童心理学者の話がありましたが、集団の中では、如何に行き届いた指導でも完璧な成果は望むほうが無理ではないかと私は思います。
看護師として永年わたしの診療所に勤めてくれた職員が、2年ほどの産休のあと、その幼児を近くの保育所に預かって貰い、長時間勤務の僅かの合間に濃密に育児に注力して、その子の好きな動植物の育成の道を歩ませ、公費で海外留学を果たし、バイオの領域で研究を続けるまでに育て上げました。
我が子の体質、性格、癖などは保護者、特に母親が最もよく知っているはずです。そこで、その子の得手不得手を早く発見して、長所をできるだけ伸ばすように援助し、短所はうまくカバーするコツを身に付けさせるように導くべきでしょう。
社会生活の基本に関しては、他人に迷惑をかけないように最大限の注意を払うべく、親がお手本になって教え習熟させてほしいものです。それ以外のことは、初めからとやかく躾けようとするよりも、折に触れて理解させるように説明し、納得させて教え、しかも根気よく反復すればよいのではないでしょうか。叩き込むのではなくて、自然に覚え込ませるのが望ましいように思います。何事によらず、「こうしなければならない」と感じて、悲壮感を抱いて臨むよりは、「楽しくやりましょう」というような気分で当たったほうがうまくいくことが多いようです。
我が子の集団生活における姿を見て下さった専門家である保育担当者のご意見は尊重して受け入れるべきですが、「子どもの躾は家庭が一番」であると自覚して実践に移し、子どもさん自身の為だけでなく、幸福な家庭を築いていただきたいと願うものです。
「子は親の背中を見て育つ」と言われます。夫婦仲が良いことは最高のお手本になります。このような好環境に恵まれた子どもさんは、余程のことが無い限り、順調に成長するものと確信しています。
(高木秀夫)