子どもの虐待を防ごう

 

 児童虐待の記事は、毎週のように新聞やテレビを賑わしている。我々子育てに関わったものとして、なにか間違った理解と指導がなかったか反省せざるを得ない。

 福祉の立場から、児童虐待の早期発見システムや、親指導が行われているが、その効果は甚だ乏しい。私の経験からも、愛情剥奪症候群の幼児で、一旦入院して良好な発達と発育を回復し、原因や状況を良く親に説明した上で家庭へ返した子どもでも、殆ど100%再発することからも理解される。要するに対策が遅すぎるのである。不幸なことに、児童虐待は再生産される傾向が強い。言い換えれば、虐待する親自身が、子どもの時に親に愛されず、虐待を受けていたという悲しい歴史がある事が多い。つまり、このような親子は、赤ちゃんの時から親子の愛情の絆が築かれていないことが根本にあり、そこへ色々な要因が加わることにより発生すると筆者は信じている。

 親と子の絆は何時どのようにして作られるのであろうか。

 まず、母親が子どもに対して初めて愛情を感じるのは、英国の調査によれば、妊娠中41%、出生時24%、生後1週27%、生後1週以後8%であったという。望まれざる子どもはそれだけで危険因子となりうるが、全ての母親が出生時に愛着を感じるわけではない。我々は親子早期接触と言う環境的な支援を行う必要があるのである。

 妊娠中はエコー検査や血液検査によって胎児の経過が綿密にフォローされ、分娩時の母は患者のような清潔な扱いを受け、出産後は母児の休息と感染予防の為、「元気な赤ちゃんですよ」と一目子どもを見せられた後は、授乳時間以外は完全な母子分離が行われた。その結果、妊娠中や周産期の死亡率は大幅に低下し、新生児の死亡率も大きく改善されたが、一方では、妊娠、出産、育児という自然な営みが大きく歪められてしまった。

 出産直後の親子早期接触が軽視されていた理由は、大きく二つある。一つは出産直後の新生児の持っている驚異的な能力に対する無知、ついで感受期への無理解である。

 一日中眠っているように見える新生児でも、出産直後の平均40分は安静覚醒時期があり、この時期には、物を見て認識し、母のハイピッチの声に反応し、口唇と手は鋭敏な感覚機能を持ち、健康な児は生後一時間で乳房を求めて母の胸を這い上がるのである。生後数時間から数日は、母子ともに愛情の交流に感受性が高いことも明らかとなった。多くの研究は、母子同室で、早期接触を毎日十分に与えられた親子の間には、最もスムースに愛情の絆が築かれ、当然母乳を長く与え、その後の養育障害が少ないことを報告している。勿論人間の成長には多くの要素があり、これでその子の運命が決定するわけではない。良い親子関係の最も好ましい出発点となるのである。従って虐待の予防は、この新生児期に開始することが最良、最効果的であることを我々は理解すべきである。

(大浦敏明)

 

 家族とのかかわり   投稿日:2006/09/01