絵本

 

 子どもは、絵本が好きです。なぜでしょうね。

 赤ちゃんは、生まれると間もなく定かではありませんが、目や耳で周囲の物を捕らえ始めます。でも、立ち上がって歩いたり、手足を使って自分で選択した物を手に取ることはできません。ベッドの上でクルクル廻っていた赤い羽が突然止まってしまったり、バギーの中から眺めていた外の景色が、急に無くなったりするのです。お母さんがスイッチを切ったり、街角を曲がったのでバギーの方向が変わったのです。

 ヒトの赤ちゃんが見ている景色は、自分で行きたいと思って行った場所の景色ではなく、不連続で、プロジェクターから投影されたスライドの画のように一こま一こま変わります。赤ちゃんはおなかが空いたり、おむつが濡れたりすると、泣き声をあげます。すると、目の前にお母さんの顔やおいしいオッパイや離乳食が現れ、気持ちのよいおむつに取り替えてもらえます。泣き声は「開け!ゴマ」の呪文となり、お母さんは魔法使いのように全能なのです。ヒトの赤ちゃんは、生まれるとすぐ独りで立ち上がって歩き出す他の哺乳類の仔獣と違います。周囲の人びとの手厚い援助を受けなければ育たないのです。赤ちゃんは栄養満点のオッパイを吸い、温かい肌に包まれながら安心して眠ります。古今東西、赤子を抱いた母子像は、慈愛と感謝の象徴として親しまれています。

 変身ベルトを着けて診察室を訪れる子もあります。幼年時代は、おとぎ話の物語の中に生きているのです。

 お母さんや保育士さんは、子どもが字を憶える前から絵本を優しいリズムで読んであげてください。毎日同じ話では飽きると思って少し変えて読むと、子どもは「違う」と訂正を求めます。同じストーリーを期待しているのです。親子一体の世界が生まれます。赤ちゃんのいる部屋には、テレビのコマーシャルや機械的な音響は感心できません。ひとりでテレビの前に坐って、ビデオを何遍も繰り返し見ていると、お母さんは、ほかの仕事ができるので便利です。でも、叫び声をあげて超スピードで動き回るキャラクターも残酷で乱暴なシーンもあります。ひとびとの日常のゆったりした生活リズムとは違っています。絵本を読んでいるときのきれいな声や言葉、お友達といっしょのゴッコ遊びは、子ども達にとっては、母乳と同じように大切なこころの栄養です。クリスマスのサンタさんなんて、来ません!お父さんが買ってくるのよ!などと言わないでくださいね。

 幼児期の子ども達は、絵本や童話の世界に住んでいるのです。

(菅原重道)

 

 あそび   投稿日:2006/09/01