マタニティーブルーズと産後のうつ病
待ち望んでいた出産で経過が順調でもマタニティーブルーズや産後うつ病になる事があります。Aさんは出産後数日で、ちょっとしたことで怒りっぽく気分が不安定になり、夫の何気ない言葉で涙がこぼれる事がありましたが、一過性で回復しました(マタニティーブルーズ)。そして、産後1か月、「授乳や夜泣きで眠れない」「食欲がない」「料理を作る気がしない」「子どもの泣き声が耳障り」といった訴えが出るようになりました。ご主人が手伝おうとすると「やり方が違うでしょ!なんでそんなこともできないの?」となじることもあり、笑う事が減っていきました。(産後うつ病)
妊娠出産という生物学的に大きな出来事は女性の体と精神に大きな変化を与えます。妊娠中は女性ホルモンが多く産生され、妊娠の維持や安全な出産、水分と電解質のバランス、ストレスに対する準備などに有利に働きます。さらに脳内の神経伝達物質に作用し、神経保護作用、認知機能障害に対する改善効果などを示します。それらが出産後急に減少する事が発症に影響すると考えられます。又、心理社会的には母親としての役割に直面し、働きながら子育てする女性では母親と勤労者としての葛藤に苦しむ事もあります。
マタニティーブルーズは、出産直後の数日間に発症する気分の低下や不安、涙もろさ、不眠、情緒や認知の障害などで、一過性でほとんどが自然に軽快します。一般的に特別な予防や治療は必要ありません。まれに産後うつ病に移行する事があるので経過観察は必要です。
それに対し、産後うつ病は、産後数週から数ヶ月で始まる事が多く、一般的なうつ病とほぼ同じ症状ですが、新生児の病気や母乳についての過剰な訴え、十分な育児が出来ない事への自責感が目立ちます。軽症や中等症でも進行したり、子どもへの愛着形成が不十分になり、養育環境が悪化し子どもの発達に影響する事もあります。物の見方が否定的になり「私は駄目な親だ…」と自信を失い、「私ばかりが大変…任せられない」と家族の協力を評価出来ず、その受け止め方が態度に表れて、さらにサポートが得られにくくなるという悪循環に陥りがちです。産後の死亡原因の20%が自殺であり、初産女性の希死・自傷念慮は5.4~15%というデーターもあります。お母さんの精神状態が良い事は赤ちゃんの発達にも必須です。必要なら一時授乳を中断してもお母さんの薬剤治療を優先する事があります。また甲状腺機能低下症や貧血による抑うつ状態にも注意が必要です。
(原 統子)