宮参り
赤ちゃんが生まれると、産飯(うぶめし)を炊き人びとにふるまい、3日目には三日祝で晴れ着を着せ、7日目には名づけ祝をして、その子を地域の社会に承認してもらいます。生後、男の子なら32日、女の子なら33日にあたる日を宮参りの日と定め、赤ちゃんは初めて外出して、産土(うぶすな)神に参詣し氏神様にひきあわされました。これは、昔の育児習俗です。
子どもが、両親の子というだけではなく、地域や親族の人びとに祝福され、見守られて成育し、節目節目を大切に暮らしていた様子がうかがえます。
それでは、現代はどうでしょうか。人びとは郷土を離れて都市へ移動し、舗装道路の上を車で走り、年中空調で寒暖のない部屋に住み、旬(しゅん)のない食品を摂取して、地縁のない都会の中で「孤独」です。落葉を焚いたり、自然のままの土や水に触れる機会が少なく、実体感を喪失しています。
そこで宮参りをはじめ、祭礼や花火大会や地蔵盆やお誕生日会など、みんなが参加して楽しめる行事やイベントが、いま復活しています。
各世代の老若男女が交流して、新しいコミュニティー(生活圏)を創り出すことを、人びとが求めているのでしょう。子育てには、父親の参加ばかりでなく、祖父母や近所の人びとや保育園など地域の支援が必要なのです。
我が国で、最も早く書かれた育児書の一つと言われる「小児必要養育草(しょうにひつようそだてぐさ)香月牛山著、元禄16年、1703年の宮参り」の個処が面白いので引用しておきます。
宮参りは「必ず、遠き神社に詣ずることなかれ。近所の産神(うぶすな)に詣でしむべし。乳母の懐に能く抱かしめ、いかにも静かに監輿(かご)をかかせ、高声をなす事をいましめ、風にあたらぬようにすべし。多くの児(ちご)は、宮参りの日より風邪をひき、あるいは乗物に振られて病を生ずるもあり。よくよく心を付けるべきなり」。
(菅原重道)