疳の虫ってどんな虫?
若いお母さんたちにとって、もはや耳慣れない言葉なのでしょう。「疳の虫って何ですか?」と、時々聞かれます。
「疳」というのは、古来子どもの様々な病状を指す言葉であり、そのような状態を起こすもの(虫)が体内にいるととらえられていたようです。それに関連して、昔は「虫封じ」として小児針がよく利用され、大阪の針中野は治療院がたくさんあったことで有名です。
現代では、夜泣きやかんしゃくなど、主に子どもの心の緊張状態を表す言葉として使われることがほとんどですね。これらの状態は大体生後6~8か月に最も多くみられるようですが、それには理由があるのですよ。
赤ちゃんは新生児期を過ぎてもしばらくの間、お母さん(或いはそれに代わる主な養育者)との一体感に包まれていて、比較的安定した心の状態にあります。空腹などの不快感が満たされると、ニコニコ笑顔でご機嫌なことが多いものです。でも月齢が進み6~8か月頃、身近な人と見知らぬ人を区別する能力ができ始めると、見知らぬ人に対して恐がったり、お母さんから離れるととても不安定になったりし始めます。これが「人見知り」や「分離不安」と呼ばれるものです。この時期に現れるこういった徴候は、赤ちゃんが順調に発達していて、養育者との絆の形成ができていることを示すものなので、特に心配は要りません。夜泣きやかんしゃくが出てもたいていは一時的なものです。抱いて背中をさすりながら、穏やかに語りかけたり、子守唄を歌ってやればそのうち落ち着いていくものがほとんどです。うまくしたもので昔からの子守唄のリズムには、心の安定を促す作用があるようですよ。
それでもとても症状が強い場合、特にひどい夜泣きなどは、家族中睡眠不足になってしまいますので、かかりつけの小児科医に相談しましょう。生活リズムの調整をしたり、月齢にあった遊びの工夫をしたりすることで治まる場合もありますし、また疳を鎮めるという漢方薬なども有効かもしれません。でも大切なことは、赤ちゃんにとっても養育者にとっても、ゆったりと安定した家庭環境を保つことであり、そのためには家族の協力が必要であると思います。
(西嶋加壽代)