学習障害
最近、教育界や医療の場で注目されてきた病態(病気とは言えない)です。以前から微細脳損傷症候群(MBD)といわれていたものも、同じ状態を示していると考えてよいと思います。現在の医学では原因がつかめない、何か微細な脳障害によって、ある能力が特に劣っている状態を言います。精神遅滞は全体的に知的なものが遅れているのに対して、全体的には普通の能力があるのに、ある特定の能力のみが劣るのが特徴です。
最近は多くの親が精神遅滞と言われるのを嫌って、この学習障害(LD=Learning Disabilities)という言葉に飛びつきますが、大切なことは劣っている能力をどのようにして高めるかですから、診断名にこだわっていると、最も重要な指導・治療・対応に誤りが生じて、結果的には適切な発達が望めません。
LDの子どもの知的レベルはほぼ健常児と同じですが、話すことが拙い、極端に計算ができない、抽象的なことが理解しにくい、運動が拙い、整理整頓ができない、注意が集中できないなど、特定の事柄の能力が欠如します。しかし、他の知的なものは普通ですから、本人も周囲の者も部分的に劣っている能力の把握に困惑し、親や先生の無理解から怒られたり、やみくもに頑張るように言われます。適切な対応はその劣った部分への特別な教育・指導ですが、これがなかなか難しく、現状では暗中模索といった状態です。
米国ではかなり研究が進んでいるのですが、わが国では個々の違いを認めるより、全体の調和や均質を重視するのが特に教育の場で顕著ですから、教育分野での対応が遅れて当然です。子どもの個々の特徴を認めて、劣っている点をはっきり認め、優れている点と調和させた指導が大切です。
知的な遅れだけでなく、極端に社会性が劣っている場合にも、この病態を考えて、いたずらに社会性がないと叱ったり、非難するより、個性と認めて適切な指導をしていくべきなのです。詳しくは専門家の診断を求めることで、気休め的な判断は発達を遅らせます。
(冨田和巳)