傷の処置について
湿潤療法の紹介
お子さんが怪我をしたときに、医療機関を受診するべきかどうか迷うことがあると思います。血がにじむ程度のすり傷はまず水道水で念入りに洗浄し、皮膚の表面に砂粒などの異物があれば洗い流して除去したのちに絆創膏で覆って経過を見ましょう。出血が多い場合には傷が深いこともありますので、受診されることをお勧めします。頭皮は身体の他の皮膚に比べて厚く、血行が豊富なために、浅い傷でもよく血が出ますから、あわてずに清潔な布で出血部位を数分間圧迫して、その後速やかに受診してください。病院で行う傷の処置について、最近は‘傷は乾かさない、消毒しない’と言う考えが普及しつつあります。傷が治るとは、外傷で失った表皮が再生することです。創部が乾燥すると、痂皮(かさぶた)ができますが、この状態では表皮を再生する細胞がうまく働きません。また真皮層まで達する深い傷の場合、治るためには肉芽(にくげ)という組織が盛ってくることが必要ですが、かさぶたができてしまうと肉芽の盛が悪くなります。つまり傷が治るためには乾燥ではなく、湿潤な環境が必要で、そのためには傷から分泌される浸出液(きしる)が重要です。この浸出液には、組織の修復と再生に必要な成分が存在しますので、傷を早く治すには、創面がこの浸出液に覆われた状態に保たれることが必要になります。またこれまで使われてきた消毒薬は、蛋白質を変性させて菌の細胞を傷害して殺菌力を発揮しますが、その際正常の細胞には影響を与えずに細菌だけを殺菌することは難しいのです。したがって安易な消毒はかえって傷の治癒を妨げる場合もありえます。このような考え方で、種々の被覆剤を用いて行なう傷の治療法を、湿潤療法や閉鎖療法と呼んでいます。最近ではコンビニエンスストアでも、傷を覆うフィルム剤が売られているのを見かけますが、これが湿潤状態に保つために傷を覆う役割をします。ただしこれを用いる場合には、感染を防ぐためにも冒頭で述べたように、まずは創部を流水で十分に洗浄して異物を除去してから貼り付けることが大切です。経過中に粘稠な分泌物が多くなってきた時には、感染を起こしている可能性もありますので、すみやかに医療機関を受診しましょう。また従来行われてきた消毒、ガーゼ交換の方法が優先されるべき状態の傷もあります。傷の種類や状態によってうまく使い分ける必要がありますので、迷った場合には医師の判断にゆだねるのがいいでしょう。
(西嶋義彦)