胸部レントゲンによる被曝
レントゲンは1895年に新しい放射線を発見したドイツの物理学者の名前(ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン)です。発見した放射線をその不思議な性質からエックス線と名付けました。現在ではエックス線写真、エックス線撮影などと言いますが、日常会話ではレントゲンがよく使われます。
胸部レントゲンは微量の放射線を首から胸部にあてて画像を作ります。上は声帯、下は肺の底で、肋骨下端などを目印にしてエックス線をあてる範囲を絞って撮影を行います。これより下方は鉛入りゴムのエプロンなどで覆ってブロック(生殖腺防御)することもありますが、通常はX線がはいらないように範囲を絞っていますので、いずれにしても患児さんの生殖腺線量は無視してよい低線量です。
放射線の量の単位としては、物質に吸収された量は吸収線量(グレイ)、人体への影響は等価線量(シーベルト)、身体全体の影響を評価するには実効線量(シーベルト)が使用されています。グレイ(Gy)とシーベルト(Sv)は、物理的意味は異なりますが、放射線診断の領域ではほぼ同じと考えてよいとされています。
自然界には、もともと宇宙線や空気、水、建築材料、大地(ウラン、トリウムなど)などに由来する自然放射線があります。大地からの放射線は、多い国では年間10ミリシーベルト(mSv)で、宇宙からふりそそぐ宇宙線は、平地の0.3mSvに比較し富士山頂では0.7mSvになります。高い山への登山はお好きですか? 一人当たりの年間自然放射線の合計は世界平均2.4mSvで、人類はこのような放射線のある環境で生存し進化してきました。検査による被曝は、胸部レントゲン(直接撮影)では実効線量で0.05mSv、胃の透視造影検査では4mSvです。1回の胸部レントゲン撮影による人体への影響は、1年間の自然放射線の約48分の1です。
病院などの放射線業務従業者には線量限度があり、1年間で50mSv、5年間で100mSvまで、女性は腹部で計測した値が3か月間で5mSvまでという上限値が勧告されています(いずれも実効線量)。
被曝の影響の大きい場合を考えると、胎児では、胎生2~8週は主要器官の形成期で、この時期に100mSv以上の被曝をすると異常を発生する可能性があります。100mSv以下では影響はないといわれています。影響の強い卵子や精子でも、自然放射線の数倍程(100mSv以下)では遺伝的影響はないといわれています。
胸部レントゲンを撮影するときは、病気を見つける方が、被曝の影響を心配するより格段に大切です。
(特別寄稿 森本静夫)