ヒトメタニュウモウイルス

 

cc187 いろいろな種類のウイルスが、ヒトに感染して呼吸器症状(咳・鼻水・発熱)を引き起こします。ヒト・メタニューモウイルス(human metapneumovirus, hMPV)もその一つで、お母さんお父さん方には聞き覚えのない名前だと思います。それもそのはずでhMPVは、小児呼吸器感染症の患者さんから2001年にオランダの研究グループにより発見されたばかりで、ほとんどの我々小児科医も医学部学生時代の授業では教わっていません。しかし以前から世界中に存在してきたいわゆるかぜウイルスの一つであり、単に発見されなかったウイルスなのです。hMPVは細気管支炎を引き起こすRSウイルス(respiratory syncytial virus, RSV)と同じく、毎年秋から春にかけて流行するとされています。また乳幼児にhMPVが感染するとRSV感染にきわめて似た症状を呈します。つまり軽症では1週間程度で自然に治ってしまう鼻水・咳などの症状のいわゆる鼻かぜですが、重症では発熱・咳・喘鳴から陥没呼吸・呼吸困難を起こし、細気管支炎、喘息様気管支炎、肺炎などと診断され入院治療が必要になります。hMPVに対する抗ウイルス薬や特別な治療法はなく、呼吸器症状や脱水症状などに対する対症療法が中心です。hMPV感染症は、インフルエンザウイルスやRSVのように鼻・咽頭粘膜の拭い検体から迅速診断はできません。ウイルス分離や遺伝子検査や採血による抗体検査などの特殊な方法で確定診断できますが、まだ多くの医療機関には普及していません。一度の感染では再感染を防ぐための十分な免疫が得られないので何度も再感染を繰り返し、健康な成人や高齢者にも感染します。またヒトに対するワクチンも開発されていません。

 hMPVは、発見されて間もないウイルスであるため、RSVと比較してもまだ明らかになっていないことが多いのですが、最近はhMPV感染が喘息発作の誘因あるいは増悪因子の一つではないか? という報告が注目されています。

(川村尚久)

 

 感染症   投稿日:2006/09/01