病原性大腸菌
今でも「おなかが痛くて、我慢できないよ」と体をくの字にして苦しんでいた、病原性大腸菌O157に感染した子どもたちの叫びが耳から離れません。病原性大腸菌O157は日本国中をパニックに陥れました。みんなに恐れられたのは激しい症状とともに、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症など生命にかかわる重い合併症があることです。
病原性大腸菌とはどんな菌でしょうか。
大腸菌は本来、健康な人の腸内にいますが、病気を起こすことはありません。しかし一部の大腸菌は下痢を引き起こし、病原性大腸菌と呼ばれています。病原性大腸菌は5種類に分類されています。その代表例としてO157についてお話しします。O157はその中の腸管出血性大腸菌に含まれ、「ベロ毒素」という強い毒を作り、HUSの原因となります。
どんな症状がでるか。
潜伏期は平均4~8日と長く、最初は感冒と見分けがつかない症状で始まり、水様性の下痢、繰り返す強烈な腹痛、さらには血性の便が特徴的です。下痢より少し遅れて血便が始まります。血便は典型例では赤ワインのような便成分の少ない水様性の血便です。38度以上の発熱はまれです。数日で症状は良くなりますが、一部の患者さんは下痢が出現してから数日後にHUSを引き起こします。HUSは急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少症を特徴とする病気で、特に乳幼児、高齢者、おなかの症状の強い人は要注意です。
O157をどう見分けるか。
夏に多い病気です。夏に血便を伴う腸炎の場合には、O157の可能性を考えることが大事です。サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、赤痢との区別がいります。おなかの症状が軽ければ、あまり心配がいりませんが、血便、腹痛が強い時は出来るだけ早く診察を受けて下さい。
O157を防ぐのにどうしたらよいか。
O157は汚染された食品を食べて感染します。特別の予防法はありませんが、よく手を洗うことや買ってからすぐに食べ、食品に十分火を通し、調理器具の清潔にも気をつけるなどのちょっとした注意が予防に役立ちます。
(橋爪孝雄)